ご 挨 拶

2025年8月1日（金）・2日（土）の2日間、第39回日本脳神経外科国際学会フォーラム（Japan Neurosurgical English Forum；第 38 回日本脳神経外科同時通訳夏季研修会を併催）を、東京都千代田区、九段会館テラス（東京都千代田区）で開催いたします。真夏の2日間とはなりますが、多くの脳神経外科医が英語に触れ、英語を学び、英語で交流することの素晴らしさを体感できるような機会となるよう、心から祈念いたします。

日本人にとって英語は、政治経済の面においても、日常生活においても避けて通ることのできない外国語でありながら、その習得に心破れて夢をあきらめ、挫折の記憶ともに「苦手意識」のみが終生付きまとう、そういうマイナスのイメージを拭い去ることのできない異文化でもあります。一方、海外で成功を治めたスポーツ選手の隣には常に英語通訳が寄り添っている姿を見て、非英語圏の人間が話す言葉のニュアンスを確かにするためには通訳の支援を必要とするのか、、どれほど英語の奥は深いのだろうか、いつになれば英語を自由に使いこなして自分自身を表現し、国際社会の一員としてしなやかに交流することができるのだろうか、そういう思いを抱くこともしばしばあるのではないでしょうか。いま日本のあらゆる街にはインバウンドの海外旅行客が溢れ、インターネットでは英語の動画や情報が絶え間なく流れ、そしてAIの登場により自動翻訳ツールが現れる時代になりました。もう英語学習は必要ない、そんな未来が語られることもあります。どうして日本人は英語を苦手としているのでしょうか、どうすれば英語を愛することができるのでしょうか。

日本脳神経外科国際学会フォーラムは、学会員による同時通訳団が運営し、各種学会・研究会において海外招待演者や留学生に円滑に討論に参加していただけるよう、脳神経外科医が通訳業務を行いながら、同時通訳の技術を学び、向上させる機会であります。と同時に、日本人の国際学会に於けるプレゼンテーション能力やグローバルな情報発信力を磨くという理念も高らかに掲げられ、これまで続けられて参りました。また、この会は英語学習の場としての役割に加え、専門分野を超えた脳神経外科医同士の交流の場としても、学会の歴史に大切に位置付けられてきた集まりであります。歴史は四半世紀ごとに改定されていく、という言葉があります。AIテクノロジーが台頭する2025年、時代の変革により既成概念がパラダイムシフトを迎えるいま、39回目を迎える国際学会フォーラムでは、脳神経外科医が対峙する目前の課題を通して、連綿と続けられてきた先人の努力の歴史を振り返りながら、JNEF/SIGNSの未来を考えたいと思います。先人が遺した足跡を真摯に学び、そして、過去からのメッセージを胸に、未来への挑戦に覚悟して臨まなくてはなりません。

海外新興国の急速な経済成長の影響を受け、まるで経済大国日本がかつての幻想であったかのような悲観論が蔓延する現在の日本社会ですが、私たちがいま英語を学び、悠々と世界で活躍し、新たに作り上げたいという未来への期待と熱意は、あたかも黒船来航に揺れた幕末の時代にありながら、急速に国家を一致させ近代国家の樹立に奔走する若き侍たちの姿に重なるようでもあります。会場から九段坂を上り、一の鳥居を超えますとすぐに、巨大な侍の銅像が目に入ります。写実的で動きのある銅像。袴姿で刀を携え草鞋を履いた左足は前へと乗り出し、険しい表情で左の上野方面を向いた「大村益次郎像」を見上げると、近代国家建設に生きた当時の人々の決意が伝わるかのようです。この大村益次郎こそ、緒方洪庵の適塾に学んだ医師であり、また明治学院大学の学祖ヘボン氏に師事し、一心不乱に英語を学んだ幕末の志士でありました。会場から少し足を延ばして、夏の日差しを感じながら、彼の眼差しに、同じ医師として、私たちの夢も重ねて頂けたらと思います。

未来を支える人材の育成を通して、わが国の脳神経外科学の発展と、国際競争力を高めて世界の医療に貢献することを目指したフォーラムの理念を、九段の青空に改めて描き、有意義な学びの機会を提供したいと思います。

末筆ではございますが、皆様の益々のご繫栄をお祈り申し上げます。一人でも多くのご参加をお待ちしています。

2024年12月吉日
謹白